【時計購入レビュー】アーミン・シュトローム マニュアル・ウォーター
今回は、本ブログ恒例の時計購入レビュー。
全世界を恐怖の渦に陥れているコロナウイルス(COVID-19)の影響で、ここ2ヶ月以上様々な活動が制限されている苦しい状況だ。
しかし私はそんな中、この恐怖と不安を一瞬で吹き飛ばしてくれるような、人生で最高の時計と出会ってしまったのだ。もちろん、家にいながらの状態で。
それが、アーミンシュトロームのマニュアル・ウォーターである。時計に興味を持って間もない頃から憧れていたブランドの時計を手にした喜びは、今までに体感したことのないものだった。
ここで、アーミンシュトロームについて軽く説明しておく。同社は1967年に設立された比較的新しいブランドで、ムーブメントのスケルトン加工を得意としたウォッチメーカーであるアーミン・シュトローム氏によって生まれた。
1980年代から本格的に内部の機構を魅せる時計を製作し続け、1991年に製作したレディース腕時計は「最も小さいスケルトンウォッチ」としてギネス記録を樹立した。
その後、新たにオーナーとなったサージュ・ミシェル氏と、ディレクターのクロード・グライスラー氏の手によって、2008年に自社工房が設立された。そこから開発力が桁違いに強化され、数多くの自社ムーブメントが製作できるようになった。
毎年のように新しい仕組みを機械に取り入れ、マイクロローターやトゥールビヨン 、ミニッツリピーター、特殊なレゾナンスなどの複雑機構を製品化している。今後も目が離せない独立系ブランドである。
そんなアーミンシュトロームとの直接的な最初の出会いは2年前の春頃だったと記憶している。私が上京して間もない頃、とある時計店で同社の時計が一堂に集まり、新作の発表を行うというイベントに出席した時のこと。
オーナーからブランドの歴史や新作の紹介などのプレゼンを聞き、直接時計に触れていくうちに、私は一気に魅了されてしまったのだ。
それから約2年後に手にしているとは、当時は全く思いもしなかっただろう。その歳月と過程には感慨深いものがある。
さて、前置きが長くなってしまったが時計の紹介に移りたいと思う。
今回購入したのはマニュアル・ウォーターというモデル。100本限定で製作され、同社のラインナップの中ではエントリー機という立ち位置で、手巻きの3針というシンプルなスペックである。しかし、そのシンプルな構造の中にもアーミンシュトロームの哲学が詰まっている時計なのだ。
まずはこの時計の顔から見ていこう。正面からだと分かりやすいが、時分針とダイヤルがオフセンターに配置されているという珍しいデザインだ。3時位置にブランドロゴのプレートがネジ留めされ、9時位置にはスモールセコンドがある。時分針には夜光塗料が塗布されているため、実用性も鑑みている事が分かる。
アーミンシュトロームの時計は文字盤に覆われたモデルが存在しない。その理由は、ムーブメントを時計のデザインの一部として取り入れるという同氏の考え方があるからだ。マニュアル・ウォーターでは文字盤の中心部を大きく開口させ、美しく仕上げられたムーブメントを露出させている。表面は円状のコート・ド・ジュネーブ仕上げが施されており、文字が彫られた香箱や針合わせ輪列の動きを眺める事ができる。
ケースは43.4mmとかなり大型だ。
文字盤側から裏蓋にかけてすり鉢状になっていたり、6時位置に特徴的な突起がついているなど、一目でアーミンシュトロームだと分かる形状。
続いてはケースバック。言うまでもなく“裏スケ”である。
マニュアル・ウォーターに搭載されている機械ははAMW 11という完全自社製ムーブメントだ。高級機にふさわしい仕上げが随所に見られる。
調速機は両持ちの受けによって支えられている。この受けは2本の細い柱が立っている構造なのは、チラネジが付いたテンプの動きをより可視化し、際立たせるためだと考えられる。
写真だと少し見えづらいが、ヒゲ持ちはフリースプラングで巻き上げヒゲが採用されている。
この時点でテンションが上がる。
輪列受けはテンプを囲むように円状にデザインされているのが面白い。
モデル名にもあるように、ブリッジには波と水飛沫がエングレービングされている。しかも各所の面取りの幅が広いうえに丸みもある。シャープな戻り角をキズミで見たときには、思わずため息が溢れてしまった。
限界まで拡大して撮影。驚いたのは、それぞれの増速輪列の歯車のスポークにも面取りされている所だ。
ムーブメントの各所に手作業の温かみを感じ取れるのも、アーミンシュトロームを愛してやまない理由のひとつである。
ムーブメントに写真のようなメダリオンがネジ留めされているのも特徴。ここにはロゴやモデル・ムーブメント名、シリアルナンバーが刻印されている。この個体は33番目に製作された事が分かる。所有者だけに与えられた特別なバッジのようにも思える。
両開き式のDバックルのつくりも非常に重厚で、大きいながらも適度な装着感を与えてくれる。閉じる際のパチっという感触が気持ちいい。
リストショット。43.4mmのデカ厚ケースは、腕が細い私にとってオーバーサイズなのは言うまでもない。しかし、このサイズ感だからこそのアーミンシュトロームらしい雰囲気と存在感を確立させている。
また、嬉しいことに純正のラバーベルトが付属している。アリゲーター製のベルトが非常に分厚いつくりをしている反面、こちらに付け替えるとスポーティな印象にガラッと変わり、着け心地が一気に軽くなったように感じた。これからは暑い季節なので、しばらくはラバーのままで。
【総評】
私がずっと憧れてきたアーミンシュトロームの時計を手にしたときの喜びは、これまでの人生で味わったことのないものだった。段ボールが届き、ボックスを開け、時計と対面した瞬間の高揚感は、何と表現すればよいだろうか…。
同社のコレクションの中ではエントリークラスである本機。複雑機構を積んだ数千万円のモデルも数多くある中で、価格は100万円台後半でシンプルな3針だ。
しかしこの時計は、アーミンシュトロームが一切の妥協をせず、誠実なウォッチメイキングを行なっている事を体現していると感じた。
氏の機械式時計への情熱と信念に、私はこれからも虜にされ続けるのだろう。
【詳細】
アーミンシュトローム マニュアル・ウォーター(Ref.ST11-MW.05)
ケース:直径43.4mm ステンレススチール
防水:5気圧
ムーブメント:自社製手巻きムーブメントAMW11 (5日間パワーリザーブ)
表示:時、分、スモールセコンド
ストラップ:アリゲーター、ラバー
限定数:100本
価格:165万円(税込)